●2007年に上海で開催された財テク商品説明会。多くの人が詰めかけ大盛況だった
『
JB Press 2013.07.02(火) 姫田 小夏
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38113
中国人の「財テク」失敗事情
「今がチャンス!」に飛びついた投資家の今
「中国人の財テク」と聞いて皆さんは何を連想するだろうか。
目を見張る経済成長を成し遂げた中国のこと、札束を積み上げてニンマリとほくそ笑む勝者が大勢いるに違いない。
そうイメージしている人も多いのではないか。
だが、すべての中国人が商売や財テクの勝ち組であるとは限らない。
そんなラッキーな人は中国でもほんの一握りに限られている。
むしろ今中国では国民の大半が大損を抱えて悶々としているのが現状である。
例えば、2007年に光大銀行が発行した財テク商品「同享二号」は、およそ30%の元本割れである。
当時、10万元でこの商品を買った顧客は3万元が消えてなくなった。
また中国工商銀行が発行した「2007年第1期基金股票双重精選人民元理財産品」は、中国の銀行の中で最も損失が大きい商品だ。
これは2007年11月に100億元を募集した財テク商品で、2013年1月時点で44%の損失を出している。
招商銀行では、2009年に売り出された財テク商品が償還を迎えたが、元本の20万元が13万元に目減りした。
怒った顧客が武漢市の支店前でメガホンを持って大騒ぎするという一幕があった。
■株式から財テク商品へ
中国語で「理財商品」と言われる財テク商品は、上海では魅惑的な響きを持って一般大衆に広く受け入れられている。
財テクもまた1つの自慢話。食事会などの席では「いまどき、財テクは常識だよね」とばかりに、投資話に花が咲く。
中国で大衆の財テクといえば株式投資がその花形だった。
2000年代の驚異的な経済成長を受け、上海株は空前の株式投資ブームをもたらした。
富裕層は本業そっちのけでのめりこみ、世界中からホットマネーが集中した。
一般庶民もなけなしの資金を株式に投じた。
しかし、2007年10月16日、上海株は6124ポイントの史上最高記録に到達したが、その直後に急落し、株式市場に翳りが見え始める。
10月22日、上海総合指数は3カ月ぶりに5000ポイントを割り、11月に入ると同指数は18%下落した。
株価がピークに達してから1カ月後の11月17日、上海で「第5回理財博覧会(財テク見本市)」が開催された。
殺到したのは、下落し始めた株式相場に不安を覚えた個人投資家だった。
主にサラリーマンやOL、そして年金生活者を含む一般生活者たちである。
見本市とはいえ、入り口では、10元(当時約160円)の入場料を課金する。
それすら払えない初老の男性がムリヤリ侵入しようとして警備員と揉みあいになる一幕もあった。
なぜ庶民が財テクに走ったのか。
背景にあったのはインフレである。2007年当時、上海の消費者物価指数は10月に5・1%を記録した。
食品のみならず、飲食や服飾までもが価格を吊り上げた。
「銀行に預けても利率はたかが知れている。このなけなしの金をいかにして増やすか」――。
こうして財テク博覧会では、ハイリスク・ハイリターンの投資信託などの金融商品にも庶民が群がった。
また、投資成功者を演壇に立たせた講演会には群衆が殺到した。
会場は異様な熱気に包まれていた。
だが、そんな中で
「このまま株や投信に資金をつぎ込んでいいのか」
という不安を抱く人々もいた。
「ファンド財テクシリーズ」と銘打ったウェブサイトには、専門家が回答するコーナーがあるが、その年の11月末にはか、例えばこんな切羽詰まった声が寄せられていた。
「妻の反対を押し切ってすべての資金を4つのファンドにつぎ込んだが、このまま預けていて大丈夫だろうか」
そして償還を迎える数年後、多くの人が損失を出し、悲嘆に暮れることになる。
■財テク商品を売りまくって恨みを買う銀行員
上海在住の李さん(仮名)は、2000年代に入ると外国人向けビジネスで小金を儲けた。
李さんはそれを資金に財テク商品を購入する。
2007年、高利回りをうたう金融商品が流通するようになると、李さんは家の近くの銀行で財テク商品を勧められるがままに購入したのだ。
李さんはそのときの心境をこう振り返る。
「株価が6124ポイントをつけた2007年末、当時はまだ、余熱が残っていました。
そのため私は銀行の営業担当の『株価はまだまだ上がる。金融市場もチャンスが広がる』という言葉をすっかり鵜呑みにしてしまいました。
そして契約書にサインしたのです」
数年後、李さんはこの財テクは失敗だったと覚る。
「保険商品」に投じた金額は100万元、だが、それは5年経った今、80万元に減ってしまった。
李さんの恨みは、自分に保険商品を売った銀行の営業担当者に向けられる。
多くの顧客に財テク商品を売り込んだその担当者は今では支店長に出世していた。
彼と同じ職場だった女性スタッフは「彼に恨みを持つお客さんは少なくありません」と打ち明ける。
彼の携帯電話にはクレームの電話がしょっちゅうかかり、ひどいときには自宅前で待ち伏せられることもあると言う。
彼が身の危険を感じる日々を過ごしていることは想像に難くない。
だが、この支店長はまだマシだと言える。
顧客の中にはもっと直接的な方法に訴える人々もいるからだ。
ある上海市民は
「上海の銀行のフロアで取っ組み合いや殴り合いが起きるのは決して珍しいことではない」
と語っている。
■外資系銀行も「グレーゾーン」で商売
上海では2013年4月、財テク商品の販売が一時的に過熱した。
当コラム(5月)でも触れたが、筆者のところにも1日何本もセールスの電話やショートメッセージが入ってきたものだ。
中国の花旗銀行(シティバンク、日本のシティバンクとは別会社)からは次のような電話がかかってきた。
「保本保息(元本、利子保証)で5%以上の利子を毎月確保します。
リスクなしの安定した商品ですよ」
日本人からすると恐ろしく魅力的な高金利だ。
興味がないと言えば嘘になる。
だが、契約書を見たところ、そこには2.5%と書かれているだけで、どこにも5%の表記はない。
営業担当に確認してみると
「銀監会(中国銀行業監督管理委員会)から指導が入るため5%とは書けない」
と苦しそうに回答した。
別の銀行では別の外国人客が同行の中国人と一緒になって行員に詰め寄っていた。
この外国人は大損したと見える。
中国人が行員にこう言う。
「複雑な契約書を読めない外国人相手にサインを迫り、こんなハイリスク・ハイリターンな商品を売りつけるなんてあまりにひどい」。
いくら詰め寄っても後の祭りである。
だが、少なからぬ上海在住の外国人も中国の財テク商品の犠牲者となったことは事実だろう。
ちなみに、2012年末、華夏銀行の行員が行った“投信商品密売事件”が発覚した。
この 事件によって、銀行が販売する財テク商品ですら非正規商品が存在するという事実が暴かれた。
銀行の信用はますます失墜するばかりだ。
ところで、中国ではシャドーバンキングが問題になっている。
シャドーバンキングとは、
金融監督当局の規制を受けている銀行の融資以外の金融取引である。
銀行が受けるような厳しい監督は受けないため、銀行に預けるより高い利回りを得ることができる。
中国のネットには財テク専門のサイトがあり、一般投資家はそうしたサイトで申し込むことができる。
その専門サイトの「信託商品」のタブをクリックすると、投資信託商品がズラリと出てくる。
1口100万元で、償還期限は2年、年利8.3%をうたうインフラ投資がらみの投資信託もあれば、年利9.2%をつける地方の不動産開発の商品もある。
資金は資本金の基準を満たさない地方の中小不動産デベロッパーなどに流れるケースも多く、不良債権化が懸念されている。
銀監会はシャドーバンキングから投資信託商品を切り離したい意向だ。
■新たな社会不安を生み出すのか
2013年第1四半期までに、中国国内の財テク商品の規模は13兆元(1元=約16円)に達したと言われている。
2011年、中国の商業銀行だけでも8.91万の財テク商品を発行し、同年末時点の発行残高は4兆5900億元にも上った。
また、全国233行の銀行と金融機関が取り扱う財テク商品は7兆1000億元だともいう。
そのうち、一般個人は6割以上も占める。
6月下旬には、総額1兆5000億元(約24兆円)の財テク商品が償還満期を迎えたと言われている。だが、銀行の資金不足で償還が困難になるとの憶測もあり、財テク商品の焦げ付きが心配されている。
上海在住の王さん(仮名)は、数年前、投資信託に手持ちの資金の多くを投じた。
投資信託は、元本保証がないハイリスク・ハイリターンの商品であることも知っていた。
動機は「息子が結婚するため、家を購入する資金を作りたかった」から。
息子の面子のためには、なんとしても短期のうちに頭金を稼ぎ出す必要があった。
しかし、投じた資金が収益を上げることはなく、3割減にも近い惨憺たる結果に終わった。
王さんは病に倒れ、床に伏したままの生活を送っている。
上海では王さんのように財テクで失敗した人が無数に存在している。
株にも裏切られ、「財テク商品」で大損しと、行き場を失った個人マネーと恨み節。
これがまた新たな社会不安を生むことを想像するとますますやりきれない思いだ。
』
【中国ってなんでそうなるの!】
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