2013年10月22日火曜日

中国の人気TV番組は漢字書き取り競争-「国内統合の一助に」

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●ヒキガエル


ウォールストリートジャーナル     2013年 10月 21日 15:28 JST
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中国の人気TV番組は漢字書き取り競争-「国内統合の一助に」
    By     ISABELLA STEGER

 「toad(ヒキガエル)」という言葉は、英語のスペリング競争ならば、一瞬で終わるだろうが、中国で全国テレビ放映されている漢字書き取りコンテストではそうはいかない。


●漢字書き取りコンテストの優勝者Lu Jialeiさん

 中国語で「toad」は、3つの漢字で「癞蛤蟆」と表現し、画数が合計で46もあるからだ。

 中国のテレビ局主催の漢字コンテスト番組に参加した14歳のYu Shuangさんは、予選ラウンドで正解の一歩手前まで来た。
 彼女のチームメートが大声で叫びながらこの漢字を指で描く中で、Yuさんは手前の画面に漢字を書いた。
 画面上に書かれた彼女の漢字は、彼女の頭上にある大きなディスプレーにも映し出された。

 彼女が書き終えると、審査員3人のうちの1人が正解を意味するブザーを鳴らし、歓声が上がった。
 しかし他の審査員2人は同意せず、Yuさんが3つ目の漢字(蟆)で短い点が一つ欠落していたことを指摘した。
 チームメートの歓声は、落胆の声に変わった。

 ミスを犯すのは、決してYuさん1人だけではない。
 コンテスト放映終了後、国営メディアの新華社通信は、番組を製作したテレビ局が視聴者の成人グループをテストしたところ、「癞蛤蟆」を正確に書けたのはわずか30%だったと嘆いた。
 新華社通信は「これは誰もが知っている言葉だ」と指摘。

 教育関係のマイナーなテレビ局で8月に放映され始めて以来、「中国漢字書き取りコンテスト」に対する人気が爆発した。

 この番組は、中国中央テレビCCTV-1の金曜日夜の時間帯にシフトし、オーディション番組「中国好声音」(The Voiceの中国版)など最も視聴率の高いショーの一つに肩を並べるほどになった。


●漢字書き取りコンテストの審査員

 金曜日夜の決勝は、中国全土で必見となり、浙江省杭州市の同じ中学校の女子生徒2人の争いになった。

 漢字コンテスト番組は中国で、急所を突いた形だ。
 中国ではスマートフォンが出回った結果、エモーティコン(顔文字)やピンイン法(中国語のローマ字表記法)を使って漢字が書けるソフトウエアが頻繁に使われているせいで、言語技術を退化させている、と漢字擁護の純粋主義者が不満を募らせているからだ。

 番組クリエーターのGuan Zhengwen氏は、この番組は米国の英単語のつづりの正確さを競う全国大会「Scripps National Spelling Bee(スペリング競争)」から着想を得たと述べている。
 同氏はとりわけ、Spelling Beeに50年前に参加した男性が自分の孫にも大会に参加させようとしたのをみて感銘を受けたという。

 Guan氏は
 「米国のように民族的に多様な国で、スペリング競争は、共有されているアメリカンドリームの共通の基盤を異なったバックグラウンド(出自)の人々に見いださせている」
と述べた。

 標準中国語(北京官話)は、広大な国土を統合する政府の戦略の重要な役割を果たしてきた。
 その国土は、極西のウイグル語を話すイスラム教徒や、南部の福建語や広東語といった方言をも包含している。
 中国のさまざまな少数民族出身のコンテスト参加者たちも民族衣装を着て漢字コンテスト番組に参加しており、中国語が中国を統合するとの考え方が色濃く出ている。

 一部には、この問題で過激な発言をする人もいる。
 例えば、元教育省の広報担当官Wang Zuming氏はミニブログ「微博」上で、小学校での英語クラスを廃止し、中国語の学習にもっと集中するよう訴えた。

 コンテスト番組の企画趣意書は、コンテスト番組を通じて「中国文明の最も目覚ましい宝の一つ」で「中国民族が人類に与えた第5の発明」である中国語への熱意を再生させたい、とうたっている。
 中国の4大発明とは通常、
 製紙、火薬、羅針盤、そして活字印刷技術
を指す。

  視聴者の一部が忘れていないパラドックスは、
 テストに出される漢字自体が簡体字
だという点だ。
 簡体字は、中国共産党が1950年代に識字率を向上させるために公式な字体に採用した字体だ。
 香港と台湾は依然として繁体字を用いている。
 繁体字は通常、1文字当たりの画数が簡体字より多い。

 18日の最終回では、8回にわたる予選と2回の準決勝を経て、160人の参加者が15人にまで絞られた。
 カザフスタンと中国を流れる川を指す「伊犁河(イリ川)」や、もみ殻を指す言葉などが出題され、決勝戦は杭州外国語学校(中学校)で主に英語を学んでいる同じクラスの女子生徒2人(ともに14歳)の対決となった。
 杭州は上海からおよそ110マイル(約176キロ)離れた位置にある。

 女子生徒の教師によると、同校では英語が重要視されているものの、中国語、特にその読解についても教育されているという。
 同校の国語(中国語)教師Su Yunsheng氏によると、
 「当校が優れているのは外国語教育だけだと考える人は少なくない」
という。
 同氏によれば、生徒は英語の勉強に集中しており、多くが海外の大学に進学する。
 「当校の生徒は英語、とりわけスピーキングが堪能だ」
と同氏は語った。

 番組開始から1時間15分ほどで、残っている挑戦者は4人となった。
 うち3人は杭州外国語学校の女子生徒で、大きめの白いTシャツに7分丈のグレーのズボンというおそろいの格好をしていた。

 その後、決勝に残ったのは2人となった。
 Lu JialeiさんとチームメートのYu Jiaminさんで、番組に臨む前の舞台裏では互いを応援する言葉を交わした。
 彼女らの目は、知っている言葉が出題されると輝いた。
 その後、Yuさんが5問目でついにつまずいた。
 「怒ったふりをする」という意味のほとんど知られていないyang chenという言葉の中国語が書けなかった。

 勝者のLuさんは、家族が営む書店で時間を過ごしたことを成功の理由に挙げた。
 Luさんは
 「たとえうるさくても、書店で本を読むのが好きだった。そ
 のせいで、私は落ち着いて慎重に読むよう訓練された」
と話した。

 彼女の文学的な好みは多岐にわたっており、物議を醸す中国人作家の余華から米国人作家のオー・ヘンリーまで読む。
 余氏は文化大革命の暴力的な描写でよく知られており、彼の著書「活きる」の映画版は中国で上映が禁じられている。

 優勝したLuさんは
 「英語と中国語が相いれないことはないと思う。
 両言語はそれぞれに美しい」
と話した。